ファインダー越しのイタリア #2
日本とは違う太陽
ローマのフィウミチーノ空港に着いたのは朝の早い時間だった。
格安航空券での長い長いフライトも終わり、とりあえず地に足をつける。
イタリアの朝はなんだか夕方みたいだ。
しばらくして始発に乗ってローマの中心部、テルミ二駅へと向かった。
ノープランの旅が本格的に始まる。
バックパックの経験値もゼロ、語力もゼロ、辞書頼み。
若さという勇気だけが旅の糧だったように思う。
日本で感じる太陽とは違うオレンジ色の光がローマの街を照らしていたのを、電車の窓から只々、ぼ~っと眺めていた。
ガタンゴトン・・・ ガタンゴトン・・・
しばらくしてテルミ二駅に着いた。
今はどうかわからないが、当時のテルミ二駅は改札口が無かった。
チケットを持っていなくてもホームの中まで自由に歩いて行けるような、首都ローマというわりに、田舎っぽさを感じた。
心地良い都会感。
そのホームでイタリアの地図を広げ、今日の行き先は何処にしようか悩む。
今思うと、なぜローマで宿を探さなかったのか??
その時の僕は、直感に従って、右手人差し指の先っぽにあるシエナという小さな町を目指すことにした。
第六感が選んだイタリアのおばさん
電車からは、のどかな風景が広がる。
初めての外国一人旅、出発前の準備から飛行機の中、乗り継ぎや、初めてのイタリアに着地・・・・
ずっと続いてきた緊張がこの風景のおかげで少しほぐれた気がする。
あぁ イタリアなんだな・・・・と少し実感。
と、ほっとしたのもつかの間、最初の難関が訪れた。
ローマからシエナに行く電車はどうやら途中で乗り換えが必要らしいのだ・・・地球の歩き方にそう書いてあった。
はて?? どこで乗り換えようか? 時々流れるアナウンスも聞き取れるわけもなく、駅名を見てもピンと来ない。
駅に止まるたびに、第六感を働かせて乗り換えはどの駅なのかを探っていた。
その第六感が僕に言った。
隣にいる中年のおばさんに聞いてみたらどうか?と・・・・
60代くらいだっただろうか?いかにもイタリア人といったようなイタリアのおばさん。
そうか、聞いてみよう。でも言葉がわからない。どうしようか?
恐るおそる、ガイドブックを片手におばさんにちかずいた。
そしてシエナを指さして、ここに行きたいという雰囲気を醸し出してみた。
半分以上テレパシーだ。若しくわ超音波か?
するとおばさんはここで降りな!みたいなジェスチャーをしているではないか。
多分、通じてる!
本当に???
あわてて僕は片方の肩にバックを背負い電車を降りたのである。
グラッツィエ!!!
チウーシチャンチャーノ??読み方はあっているのかわからないけど、7月11日、第六感が選んだイタリアのおばさんを信じた初めての日になった。
中心部というもの
結果論だけど、、僕の第六感は大正解で、無事にシエナへと続く電車の乗り換えは成功したのであった。
シエナの町に着くや否や、すぐに次の試練が待ち受けていた。
そう、今晩泊まる宿探しだ。
事前に下調べしておいた情報によると、格安で泊まることができるユースホステルというものが世界中にはあるらしい・・・
相部屋で2段ベッドで知らない人と同じ部屋で・・・ イタリア語で何だったかな?
その宿を探すために、まずはシエナの町の中心部を歩いて目指すことに。
レトロな町並みが続く シエナという町。
イタリアでの初めての町歩き。
何度もいうようだけど、スマホもなくグーグルマップもない時代。
もちろん、当たり前のように迷います。 ぐるンぐるんぐるんぐるうん 本当にこういう音がきこえるんじゃないかっていうくらい迷いに迷う。
7月11日 、大人になって迷子になった初めての日・・・大人だって迷うんだ・・・
中心部に着くまでに何歩歩いたことだろう?
食べ物の買い方もろくにわからず、
果てしなく歩いたような・・・・きっと時差ぼけのせいか?
ようやく中心部らしき所に到着した。
そこで見つけた町のインフォメーションでユースホステルのことを聞いたところ、どうもこのバス停からバスに乗れと言っているような気がした。
よし、バスに乗ってみようか。 この時の僕がどうやってバスのチケットを買ってどうやって乗ったのかは覚えていない。
そのあとになってわかったのだが、イタリアのバスは事前にチケットを買ってバスの乗り口に設置してある、刻印機に自分で印字するのである。 ちゃんとチケットを買ったのか?? 買えたのか???
そうしてバスに揺られること1時間くらい?
乗る前に運転手にガイドブックを見せて、このバスがユースホステルの前を通るか確認してから乗ったつもりだった。
そして、揺られてたどり着いたところは、なんと・・・・・・乗ったところと同じところ、町の中心部だったのである。
・・・・なるほど、市内循環の路線バスだったんだね・・・・
オステッラ ディ ジョベントゥ
そうと解ればもう一度乗るだけだ!
もう一度運転手にガイドブックを見せ、ユースホステルのところへという雰囲気を伝えた。
バスの運転手はそんな僕の姿を見て、少し不機嫌そうであった。
お前まだ乗っていたのか??みたいな・・・・ しかたない座ってろ と言われたような・・・多分言われてるな。
人生に挑戦はつきものである。
挑戦の内容は人それぞれだ、大小は関係ない。
今度は30分くらい揺られたあたりだろうか? バスの運転手が何やらマイクでしゃべっている。何を言っているのかはさっぱりだが、
確実に僕に向けて何かを言っていた。なぜそうだとわかるのか?
それは、運転手の声がバスに響いた瞬間に、バスの乗客が一斉に僕のほうを見たからだ。
決して優しい口調ではなかったから、何か文句でも言っていたのかもしれない。
おう、ここがお前の泊まりたがっているユースホステルの前だぞ、今度はちゃんと教えてやったからな!さぁ降りろ!!
グ・・・グラッィエ・・・
全部が被害妄想だったらすみません。
被害を妄想できるくらいって、本当に平和で幸せなことだなとしみじみ。
そんなこんなで無事にユースホステルに到着。
バスを降りて更に驚愕の事実を知ることに・・・・・
なんとこの場所、この日シエナの駅に着いて中心部を目指して迷い歩いていた時に、何度も何度も通っていた道だったのだ。
何度も何度もユースホステルの前を
イタリア語では何て言うんだったかな? 確か・・・ オステッラ ディ ジョベントゥ ??・・・・
ユースホステルを探していた僕にはオステッラ ディ ジョベントゥ はそりゃ見つからないわけだ・・・
シエナのカンポ広場
単刀直入に言おう。
本当に雰囲気が只々美しかった。
この地形、斜面を利用して建物を立ち並べ、囲むように広場を配置。
自然と集まりたくなるような設計、デザインの広場。 簡単には語ることができない人々の歴史が積み重なっているのが、そこかしこに見て取れる。
座っている人、歩いている人、今と昔 全部がデザインの一部なのかもしれないな。
yesterday
実はシエナに着いたその日 ユースホステルで、ひと悶着あったのだ。
まずユースホステルに着いた僕は重い荷物を背負いながら、フロントに向かった。
よくあるホテルのそれとは違って、とてもざっくりとしたフロントだ。
そこには30代くらいの男性が座っていた。
1日中歩き回った後のへとへとの体、初めての宿探し・・・
どうやって泊りたいことを伝えたらいいのかもわからない僕は、
片言の中学生レベルの英語で話すことにした。
脳みそにも糖分がたりていなかったのかもしれない。
あ、あ、アイ ヲォントゥ ステイ イェスタデイ、OK?・・・・・・・・・
OK?だけはいい発音だったに違いない。
・・・・・・・
しばらくの沈黙の後に目の前の男性が言った。 NO
ん? 聞き取れないのかな?
僕はもう一回ゆっくりと聞いた。
I want stay yesterday , OK?
・・・・ 男性の答えは変わらない。
NO である。
????
そりゃそうだ。
昨日泊まりたいって言っちゃってるものだから・・・
それでも、1日の濃度の濃さのせいでか、もともとの語学力のせいなのか??
どちらにしても僕は気づかない・・
どうしてなんだ?? 目の前にいる男の後ろの壁には部屋の鍵らしきものがたくさんかかっているのに、
なぜ、僕はダメなんだ?? もしかしてアジア人は泊まれないとかそういう人種差別的なルールでもあるのか?
あらゆる推測が頭の中を駆け巡る。走馬灯でも見たかのような駆け巡り方だ。
どうしよう、どうしよう・・・・さあどうする?
・・・・ すると男性が口を開いた。
トゥーナイト OK
???! 脳の神経回路が繋がる音がする。
お~ 2日なら泊まれるのか!
しかし僕はこう思った。 なんで2日縛りなのか?
これは新手の詐欺か何かか? 相手の言いなりでここでOKをしてしまうといいカモになってしまうかもしれない。
何が目的なのかは解らないがここは言いなりになってはいけない・・・・・・この先旅に来る若い日本人が舐められないように。
日本にいるときには抱いたことのない使命感を胸に。
トゥーナイト No! ワンナイト OK?? 僕は毅然とした態度で言い返した。
すると フロントの男性はきょとんとした顔で少し困った顔でこう答えた OK・・・と。
なにか腑に落ちないような様子の男性をしり目に、小さく握ったこぶしの中には汗がじんわりと滲み出ていた。
しり目の男性がしぶとく呟いているのが聞こえる・・・
・・・・・・・・・・Tonight・・・OK・・・・
負けなかったぞ!! 初めての宿探し、一泊勝ち取ったぞ!! 僕は絶対に騙されない。
こうして心身ともに疲れきった僕は、相部屋の2段ベットの下で16時くらいから次の朝まで死んだように眠りについた。
どんな量のカフェインでも効かないくらいに、どっぷりと眠った。
翌日の早朝、小鳥たちの会話だけが僕を目覚めさせることができた。
二段ベッドの上の段には欧米人の男が寝ていた。 これがドミトリーというものか・・・・
昨日の勝利も相まってとても清々しい新しい朝だったのを覚えている。
この後昨日の出来事を振り返り十分に糖分が脳に回り始めた頃
自分が何物にも勝っていないことに気づくまでにはそんなに時間を要さなかったのは言うまでもない。
せっかくだから、今夜も泊まらしてもらおうかな。