そう思えた朝

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股関節唇損傷体験記 #6

目が覚めたのは、16時か?17時くらいだったと思う。

僕の名前を呼ぶ声がして、うっすらと目を開けた。まだ意識は少しもうろうとしていて、誰かと喋ったことは覚えているが、誰と何を喋ったのかは覚えていない。

僕が受けた手術は、股関節鏡視下手術というもので、太ももの骨盤の下辺り外側2箇所からカメラを入れて、その先に付いている手術道具を遠隔操作し、削ったり、ぬったりする手術である。

ちょっと前までは、穴は3箇所だったのが今回は2箇所になって、より傷口が少なく、患者側からしたらありがたい話だ。

股関節を一度脱臼させながら、手術を行う為、あまり長く脱臼状態にしておくことも、体に良くないようで、スピードも肝心だということだった。目安は2時間以内に終わらすこと。

出ぱってる骨を削り、案の定かなり傷んでいたという、股関節唇をぬい、外科手術は完了。

ぬうと言っても、言葉では二文字だが、実際にはかなりの高度な技術だと思う。

骨盤にアンカーを打ち、それに専用の糸で剥がれた股関節唇を縛りつけるのだ。縫うよりも縛る感じなのだろうか?

話を聞いただけでも、脱帽ものである。

コンクリートにアンカーを打って、鉄筋を縛りつけることは、職業柄経験はある。

だから余計に、骨にアンカーを打ち、しかも内視鏡で、さらに体内で・・・という技術が、相当難しいのは、容易に想像できた。

術後の夜の話

麻酔が覚めてからの1番痛い時間帯、だいたい4〜5時間がピークらしい。

ピークの痛みを和らげるため用の、痛み止めを使うとも聞いていた。

痛み止めのおかげか?それとも麻酔が残っているのか?痛みは全く感じなかった。その代わりに両方の足は痺れている状態。足首には何やらマッサージ機のようなものが着けられていたが、ブーンブーンという音だけが、痛みの代わりに天井に響いていた。

嵐の前の静けさ

痛みが強くなってきたらワンプッシュで痛み止めを注入できるという、そういう画期的な管が、背中、背骨?にも用意され、準備は万端。

21時

まだ、痛みは感じない・・・

この様子なら、正直、朝まで楽勝だぞ!まだ、ワンプッシュ痛み止めも使っていないし、なんなら、出番も無さそうだ。

 

無知の知

22時

じわじわと痛みの波が押し寄せてきた。

ワンプッシュボタンに手が伸びる。

ボタンを押そうとしたその時、どこからか声が聞こえてきた。

『あれだけ楽勝かも?なんて言ってたのは、何処の誰?』

僕は、ボタンを押すのをためらった。

確かに、僕だ。少し過去の僕だ。

知らないということが後押しして、傲慢になっていたのだ。謙虚さを忘れてしまっていた。

そうだ、ここで押したら僕は負けだ。

ここで押したら、押しぐせがついてしまう。

これからの人生で、何かある度に僕はボタンを探してしまうことになる。

薔薇かと思っていたけど、庭に咲く花・・・牡丹

卒業式には誰かに渡す予定の・・・第2ボタンを

緩んだ蛇口から落ちる・・・ポタン、ポタンという水滴の音

風にあおられ、閉じるドア・・・キ〜〜バタン!

ボタン依存症になるのが目に見えている。

でも痛い。

痛みの波が絶えず押し寄せてくる。

押したい、押すな、押したい、押せ、負けだぞ、押すんだ・・・押す、♂、♀、

看護師がにこやかに囁いた。

「我慢しないでくださいね〜」

押忍!

・・・気づいた時には、僕の手の中のボタンは既に押された後だった。

このやりとりを、5~6回、繰り返しただろうか?

朝が近づくに連れて、痛みの度合いも落ち着いてきたように思う。 慣れてきたというのも、あるのかもしれないが。

太陽がのぼるのを追いかけるように、僕はまた一つ、大人の階段をのぼるのであった。

もう既に、大人なのだが、

いつまでも謙虚であり続けたいな、

そう思える、 痛いくらいに、すがすがしい朝だった。

 

つづく・・・#7プロフェッショナル

 

#1 出会いの数だけ・・・ 股関節唇損傷との出会いはこちらをお読みください。

 

 

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